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研究の概要

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【流星の分光】流星は,彗星や小惑星から放出された塵(ダスト,メテオロイド)が地球超高層大気中に超高速(秒速12-72km)で突入し,地球大気原子分子と流星からの蒸発物質が衝突して励起されたプラズマ発光現象である。流星発光を分光器で観測を行うことにより,発光物質の組成比やプラズマ励起温度などの物理化学素過程を調査することが可能となる。また,流星を2地点(基線100km以上)から観測することにより,パララックスから軌道を決定することができる。流星の分光観測と軌道決定を組み合わせることにより,母天体の力学的・物質化学的特徴も推定できるため,地上からの流星観測は,探査機を使わない地球に居ながらにした間接探査とも言える。また,流星の分光観測は,室内で模擬することが不可能な超高速衝突発光現象の理解,地球帰還カプセルの開発にも役立つと期待される。更に,スプライト(Sprites),エルヴス(Elves)などのTLE(Transient Luminous Event)と呼ばれる未解明の超高層雷光現象(宇宙へ飛んで行く雷放電)にも,分光学的アプローチで取り組む。(参考文献;「しし座流星群」がもたらした流星天文学しし座流星群国際航空機観測ミッション(Leonid MAC))

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【流星の軌道】流星・火球の分光観測と同時に,多地点からの撮像観測から軌道を決定し,母天体同定や地球流入物質の起源を統計的に調査する.また,国立極地研究所,国立天文台,スウェーデン宇宙物理研究所と協力しながら,京都大学生存圏研究所の直径103mのMUレーダー観測所を用いた流星ヘッド・エコー観測から得る流星軌道データベースを用いた研究を行う.更に,彗星から放出されたダストが形成するダスト・トレイルの力学的進化を,国立天文台の計算機群を用いて計算して,流星群予報を行う.

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【小惑星】太陽の反射光で光る小惑星の自転に伴う光度変化を「ライトカーブ(lightcurve)」という.望遠鏡観測から得られるライトカーブから,小惑星の自転周期,自転軸方向,形状や衛星の存在を調べる.一方,分光観測からは,地上で採取された隕石と対応する小惑星タイプを決定して,表層の鉱物や水の存在,宇宙風化などの表面状態についても調査する.これらの観測は,国内外の複数の共同利用天文台に観測時間を申請して遂行していく. 地球軌道に接近する地球近傍小天体(NEOs; near-Earth Objects)や地球衝突危険性天体(PHOs; Potentially Hazardous Objects)は,地球軌道に近い(或は交差している)ため,少ない燃料と時間で探査機で到達できる格好のターゲットである。はやぶさ探査機が探査を行った小惑星イトカワ,はやぶさ2探査機が目指す小惑星1999 JU3も地球衝突危険性天体PHOである(地球衝突確率は100万年に一回)。NEOs/PHOsはまた,地球に落下する隕石の起源と考えられているが,NEOs/PHOsと落下隕石や流星・火球との関連については未解明である。軌道力学進化と物質科学的なアプローチから,隕石・火球と関連母天体のリンクについての研究を行う。

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【小天体探査】「はやぶさ2」は、小惑星イトカワを探査して、表層試料を地球へ持ち帰った「はやぶさ」の後継機です。イトカワはS型と呼ばれるケイ素質の岩石小惑星だったのに対して、「はやぶさ2」が向かう小惑星「1999 JU3」はC型と呼ばれ、炭素系有機物や水を多く含む直径900mほどの炭素質の岩石小惑星です。地球に落下した炭素質隕石は、超高速大気突入時の空力加熱によって、有機物や水が変性ないし失われてしまった状態であるため、母天体からフレッシュな状態のサンプルを地球へ持ち帰る必要があります。太陽系形成時の有機物や水を調べ、地球の生命や海を構成する有機物の起源について調査します。 「はやぶさ2」は、2014年末に打ち上げが予定され、2018年初夏から約1年半の長期間、小惑星と並走しながらリモート探査と複数箇所からの試料採取を行い、2020年末に地球へ帰還します。小惑星表面物質は、宇宙風化によって変性している可能性があるため、爆薬を起爆して、加速された金属塊を衝突させて形成される人工クレーター内部からの試料採取も試みます。太陽系小天体探査の最前線から送られてくる「はやぶさ2」のデータを吟味して、小惑星の地形、組成、内部構造などの物理化学的な性質、軌道進化や形成過程と起源について紐解く研究を行います。また、惑星間空間から直接地球大気へ超高速突入する帰還カプセルの発光を「人工流星」に見立てた科学的な観測を、2020年末に豪州の砂漠で行うことも計画しています。小惑星到着までは,「はやぶさ2」のサイエンスの準備の他,「はやぶさ初号機」で得られたデータをしゃぶり尽くします。 (参考文献; Mass and Local Topography Measurements of Itokawa by Hayabusa (S. Abe et al. 2006, Science 312(5778): 1344-1347), はやぶさ探査機による小惑星イトカワの質量と局所地形の計測(サイエンス・プレスリリース), はやぶさレーザ高度計(LIDAR)による科学成果「はやぶさ」によるイトカワの「サイエンス」特集!イトカワの砂)

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【人工流星】2010年6月,はやぶさ探査機とカプセルの地球帰還再突入発光(突入速度;秒速12km)の撮像・分光観測をJAXA光学班として実施した。我々(e.g., Abe et al. 2011; Fujita et al. 2011)の観測により,地球帰還カプセルの灰色温度は高度42kmで約2400Kと設計通りの性能を示したことが確認された。アブレーター素材(熱防御材)の炭素(カーボン・フェノール)と大気中の窒素が化合して生成されたCN分子が近紫外域で観測され,窒素分子N2+(1-)の近紫外線発光からは,カプセル周りのプラズマ振動温度が13,000Kと非常に高温であることが分かった。一方,探査機本体のプラズマ電子温度は,4500-6000Kの範囲で変化していることが分かった。探査機が高度63kmで大爆発(満月と同じ-13等級に達)した後に鉄が溶融してFe/Mg組成比が10倍に急上昇し,気化した鉄が大気中の酸素と化合して酸化鉄(FeO)も生成された。低空約54kmでは,リチウム・イオン電池が爆発し,顕著なLi輝線と共に探査機はやぶさは,紅蓮の光を放って地球大気中に雲散霧消した。更なるデータを詳細解析し,発光モデルと比較することで流星発光過程を理解するだけでなく,国際宇宙ステーション補給機「こうのとり」の再突入発光や,将来の再突入機観測(はやぶさ2,Osiris-Rexなど)にも役立てていく研究を行う。(参考文献;Near-Ultraviolet and Visible Spectroscopy of HAYABUSA Spacecraft Re-Entry (S. Abe et al. 2011)「はやぶさ」おかえりー ~はやぶさ最後の輝き~) 【人工流れ星実験】低軌道衛星から流星模擬体を地球大気へ突入させて、人工的に流れ星を発生させる。本プロジェクトは、株式会社ALE・岡島玲奈博士、首都大学東京・佐原宏典博士、帝京大学・渡部武夫博士らとの共同研究として進める。アベラボでは、模擬流星体の開発・実験やアブレーション・プラズマの数値計算などを担当し、世界初の人工流星の事業化に協力していきます。

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【流星痕プラズマ】永続痕は,流星や飛翔体通過後に非常に稀に高度70-90kmの付近に長時間残る発光プラズマ雲である。数十秒から数十分に及ぶ永続痕も発生するが,発光メカニズムについては不明な点が多い。Abe et al. (2005)の分光観測からは,発光後15秒程度で超高層大気中の温度と同じ200K程度まで冷却することが示された。このことから,長時間発光が熱的な発光から,化学エネルギーによるルミネッセンスに遷移することが推察される。中間圏と熱圏の圏界面付近でしか発生しないことから,物理化学的な発生メカニズムと超高層大気の条件などが関与していると思われる。観測結果と化学計算などを使って,永続痕の発光メカニズムについて研究する。(参考文献;Video and Photographic Spectroscopy of 1998 and 2001 Leonid Persistent Trains from 300 to 930 nm (S. Abe et al. 2004)

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【宇宙からの流星観測】流星に含まれる炭素(C),水素(H),硫黄(S)などの有機物は,オゾン層の吸収により地上からの観測が困難な遠紫外線領域でプラズマ発光を行う。宇宙から流星の分光観測を行うことにより,地球に到来する有機物=生命前駆物質の探査を行うことが可能となる。宇宙からの流星の分光観測は,これまで米国スパイ衛星による1例のみである。生命の宇宙起源説を検証する宇宙生物学の一環として,小型衛星や国際宇宙ステーション搭載を想定した遠紫外-紫外線分光器カメラの開発に取り組む。また,広範囲を見渡せる宇宙からの流星観測からは,これまで分かっていない微小小天体(数十センチメートルからメートルサイズ)の地球衝突頻度を統計的に確かめることができる。つまり,地上望遠鏡での検出が困難な微小小天体のフラックスを,地球大気を巨大な望遠鏡に見立てた宇宙からの観測で物質科学も含めて明らかにする研究に取り組む。(参考文献;Detection of the N2+ First Negative System in a Bright Leonid Fireball (S. Abe et al. 2005)

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